人体を描けるようになりたくて4ヶ月間勉強した話(5)
人体描写を学び始めて3ヶ月目にして突如悟りを開いたかのような安寧とした気持ちに満たされた私のこれまでのあゆみはこちら。
人体描写の勉強をしようと思ったきっかけ
勉強を始める前に自分の実力を確認した話
1〜2ヶ月目の学習内容
3ヶ月目でカラー創作絵を描いた話
今回は4ヶ月目に入り、新しい学習法に取り組みます。
4ヶ月目:ポーズカタログ集で学ぶ
学習によって知識はメキメキ増加し、その効果を途中途中で確認する事で自らを鼓舞しながら進んできてはいました。
それでもやはり実践的な知識が乏しく、何も見ずに満足な人体が描けるとは思えませんでした。
例えば、数学の公式や理屈を授業で習ってわかった気になっても練習問題を解いてみて、学んだ知識をどこでどう使うか、実践練習をしなければテストで点数は取れない。
「わかる」と「できる」は違うことは学生の時からわかっていました。
それでもやりたくないことはやらない、それが人間というものです。
物理のテストで18点を取った時に理系への道はアッサリ諦めました。
しかし、絵に関しては自分がやりたいと思ったので0点からでも諦めずにやることにしました。
そこで自分の好きな作家の絵や推しの写真などをたくさん模写しようと思っても、いちいち資料を探すのが面倒でしたし、好きなものを描きたいというより、体全体のバランスや、立った時、座った時、手足は胴体はどういう角度でどう見えるのかを学び、脳と体に叩き込むだけの数をこなす必要があると思いました。
そこで見つけた本がこちら。
男女3人の下着姿や着衣の全身写真が約800ポーズ収められていました。
ファッションモデルが服を見せる時のポーズではなく、普通に人が立っている時、座っている時の全身が写っています。
実際絵に描くときは上半身だけでも、背景や他の人物とパースを合わせるときは全身がどう収まっているかある程度気にする必要があるし、コマの外に肘が出ていて前腕だけ描きたい時でも肩から腕全体の角度がわからなければ不自然になってしまい、手を抜こうと思ってやっていることなのにそれすらできず、いちいち落ち込む原因にもなっていました。
下着姿は筋肉や骨までわかるので今までの勉強の復習になりますし、着衣の写真は服のシワの勉強になります。
これをできるだけ数多く模写することにしました。
最初は一枚描くのに1時間半くらいかかりました。
2時間かかることもありました。
体の大まかな形を捉えるのにも、そこから正しい線を見極めるにも時間がかかり、1時間半から2時間かけて1つのモチーフにこだわるのは結構しんどい。
そこで大まかな形を短時間で正確に捉えられるようになることを目的に、練習にクロッキーを取り入れることにしました。
1ポーズ10分で6ポーズ、計およそ1時間で描くのをウオーミングアップとし、その中から数ポーズ清書して正しい形を最小限の線で描けるよう意識して取り組みました。
クロッキーをする時、このアプリが便利でした。
準備時間、ワークアウト時間、休憩時間、セット数が設定できるので、10分やって1分休憩中に次に描く写真を決めて…というのを6セット設定してやりました。
筋トレみたいで楽しかったです。
実際集中するので終わる頃には汗だくということもありました。
その合間に、かの有名な「ソッカの美術解剖学ノート」も読みました。
図書館で借りようと思ったら貸出中だったので予約していて、借りられるようになるまで2ヶ月かかりました。
そのくらい人気のある本です。
Amazonレビューでも高評価です。
でもこれ、653ページもあり、そのほとんどが解説(文章)です。
実際の人体解剖図より解説の方が多く、文章を読むのにもとても時間がかかります。
すごくわかりやすく丁寧に、とっつきやすい文章で書かれているので読みやすいですし、内容も濃く、著者の絵もとても魅力的なのでいい本だと思います。
体の各部位、筋肉や骨の解説にとどまらず「なぜこの骨や筋肉はそういう形になっているのか」という原理が説明されていたり、他の動物との比較などもあり、大変面白く参考になりました。
高評価も納得です。
もし、私が漫画素材工房さんと「スカルプターのための美術解剖学」を先に読んでいなければ「これはすごい!これで勉強しよう!」と思っていたはずですが、2つを先に知ってしまったので、その2つで十分だったなと思いました。
クロッキーをしだして、初めてクロッキーをした小学校の図工の授業を思い出しました。
その時の先生が子供にクロッキーを描かせるのが好きな人で、勢いよく、大げさに描けば描くほど褒められたので、先生に褒められるように描いていた覚えがあります。
通知表は5段階評価でずっと5でした。
「スクールオブロック」のジャック・ブラックにそっくりだった杉谷先生、お元気でしょうか。
そんな邪念は地元に捨ててきました。
今は誰かに褒められ、評価されるために描くんじゃないんです。
自分が描きたいものが描けるようになりたいから描くのです。
その目的に向かって邁進するのみ。
ひたすら描いて、
描いて、
描きまくりました。
私の好きなまんきつさんという方の漫画に「湯遊ワンダーランド」というのがあります。
このなかでまんきつさんの弟さんが「サウナとヨガで脳と体をチューニングしておけ」とおっしゃっています。
私のクロッキーと模写はまさに「脳と体のチューニング」でした。
たくさんの人体に触れ、頭の中のイメージをはっきりさせる。
それを出力する指先の感覚も脳のイメージに合わせ、美しく正しい線を一発で描く。
失敗するとリカバリーが大変なアナログ漫画を描いている方はその訓練を日々重ねているからか、アナログ漫画の原画は息を飲む美しさです。
脳内イメージも指先の感覚もモヤモヤのガタガタな私がcommand+zでいくらでも描き直せるデジタル環境で描いているのは甘やかし以外の何物でもないと自覚しつつ、結局私が最終的に漫画を描くのはデジタル環境なので「デジタル環境でどうすれば早く必要最低限の絵が描けるか」を念頭において、随時いろんなツールを試しながら時間短縮を狙っていきたいと考えたことにして、文明の利器による利便性を享受することを正当化しました。
よってここからは
- 今まで学んだことが理解できているかの確認
- 様々な角度から見た体の各部位がどんな形に見えるかの確認
- デジタル環境で見栄えのする絵を最速で描くために、どこでつまづくかを洗い出し、その都度いいツールや方法がないか調べる
- 線をたくさん引いてごまかさず、一発で美しい線を引くことを意識
- 影やシワなどを効率よく確かに表現する方法を探る
以上を目的としてとりあえず1ヶ月やってみて、どんな成果が得られるかみてみることにしました。
ちなみに私がまんきつさんを知ったのは2012年に始められたブログを読んだことがきっかけで、インターネット黎明期からテキストサイトを読み続けてきた私が、その傑出した天才的な面白さに腰を抜かしたブログ(当時のサイトからはお引越しされたようです)のリンクを貼っておきますので刮目して見よ。
人体の写真を見ながらの模写は、以前やった人体標本模型のような筋肉丸出しの人体模写とは明らかに違っていました。
「人間の体って美しくできてるな〜」と常に感じていました。
モデルの顔がいいとか、スタイルがいいとかそういうことではなく、人が作る体の線や立体がとても美しく感じられて仕方ありませんでした。
なんでこんなにうまくできているんだろう。
この手足のバランスはどうだ!
胴体のひねりから生まれる曲線の美しさよ!
人類を創造した神がいるなら「人間をこんなに美しく作ってくれてありがとうございます」と感謝したい気持ちでいっぱいでした。
太古の昔から人は人をモチーフとして多くの芸術を残してきました。
わかる、わかるよ、その気持ち。
人体ってすごいもんね、美しいもんね!
と、いにしえの芸術家たちと分かち合いたい気持ちにもなりました。
やっぱり人体を描けるようになりたい!とルネッサンスな情熱が心に燃えたぎっていたのもつかの間、2週間が過ぎた頃、急に描けなくなってしまいます。
(6)につづきます。
次で終わります。