人体を描けるようになりたくて4ヶ月間勉強した話(4)
知識ゼロから出発して2ヶ月、これまで絵を描くために払ってきた犠牲の多さに呆然とした私。
前回までの記事はこちら。
人体描写の勉強をしようと思ったきっかけ
勉強を始める前に自分の実力を確認した話
1、2ヶ月目の学習内容
今回は3ヶ月目です。
3ヶ月目:創作カラー絵を描いてみる
呆然と立ちすくんでいても絵は描けるようにならないのはこの5年で身に沁みていたので、戦没者の御霊を弔いつつ粛々と学習に勤しみました。
「スカルプターのための美術解剖学」も一通り必要と思われることはなぞったところで、ちょっと実践的なことをやってみたいという気持ちになってきました。
人体の知識を得たところで、それを絵に落とし込めなければだたの人体に詳しい人になるだけです。
目的はあくまで「人体が描けるようになる」ことです。
魅力的な人体とは、絵とはどういうものか研究するためにまた本を借りてきました。
私はBUCK-TICKを、漫画を描きたいだけなので、正直かわいい女の子とか萌え絵などは実際自分が描きたいモチーフではありません。
しかし、それらの絵はたくさんの技術や工夫、人を惹きつける魅力が詰まっていることはわかるので、学べるところは学びたいと思って読みました。
透明感を演出するために多くのレイヤーを使って色を重ねていく様は、ナチュラルさを演出するために様々な化粧品を使い手の込んだメイクをするメイク動画をみているようでした。
いずれこれらのノウハウを駆使してキラキラした魅力的な絵を描いてみたいと思い、ノートにメモしていたところ、一枚絵を描く機会が巡ってきました。
巡ってきたというか、自らその機会を作りました。
いわゆる自作自演です。
7月半ばにネット麻雀大会を開き、その優勝賞品として優勝者の希望に沿った絵を私が描いて進呈するという、父の日に肩たたき券をプレゼントする子供のようなイベントを自ら設定しました。
そういうのは恋人、親族というような親密な間柄でのみ成立するというのは既成概念としておいといて、そこを平然と大胆かつ図々しく乗り越えていくのが私の鈍感力の真骨頂と言えるでしょう。
初めて主催した大会という事もあり、あまりにも見ず知らずの猛者たちが攻め込んできても対応できる自信がなかったので、参加者は大会告知前までに私のTwitterアカウントをフォローしてくださっている方限定としました。
結果、参加者はほぼオフ会等で会ったことがあったり、毎週一緒に麻雀していた旧知の方々となり、事前に予測していた心配は杞憂に終わりました。
そんな中優勝をもぎ取っていったのはこの大会を通じて初めて話した方でした。
この方がとにかく愉快な方で、彼が指定してきた条件もとてもユニークなものでした。
「エドモンド本田(ストリートファイター)と本田未央(アイドルマスター)と酒場のオヤジ(ハースストーン)が雀魂(大会で使用したネット麻雀ゲーム)の待機画面のように雀卓を囲んでいる、Twitterのヘッダーサイズの絵が欲しい」
その条件で描き上げた絵がこちら。
こういった自由な発想、好きなものを形にできるのが絵のいいところです。
私には思いつかない彼の世界を私なりに表現するために、今自分にできる全てを注ぎ込んで精一杯描こうと思って取り組みました。
借りてきた本のようなキラキラ感、透明感には程遠い仕上がりにしかなりませんでした。
着色は着色で必要とされる専門的知識があり、絵の世界は本当に奥が深いと思います。
それはそれで追々勉強していくことにして、今はこれが自分の限界ですと思いながら提出しました。
優勝者の方も本心はどうかわかりませんが、表面上大変喜んでくださったので、これでよかったことにしました。
この絵を描いている時、この2ヶ月間勉強してきたことは無駄ではなかったと感じていました。
描き上げるのに1週間以上かかりましたし、そんなにすんなりスラスラ描けたわけではありません。
それでも今まで人体が描けずに感じていたストレスは何分の1にも軽減されていました。
「この人はこういう角度で描きたい。こういう姿勢を取らせたい」と思った時にそれなりに描けた感じがしました。
この時「知識を得ると、紙(画面)の上で自由になれる」と感じました。
今まで描きたいものが描けないのが強いストレスで、絵が好きで、描きたいのに「もう描けない」と何度も思ってきました。
描きたいものがあるのに描き方がわからない。
目的地がわかっているのに行き方がわからない。
ならば描き方を、行き方を知ればいいのです。
今までは徒歩で行くことしかできず、目的地への道もよくわからなかった場所に、鉄道が走っていることを知り、切符の買い方がわかればとても楽に早くつけるのです。
人体の知識を得るということは、目的地へ早く楽につくための手段を1つ得ることなのだと感じました。
もっと自由になりたい。
もっと早く、遠くへ行きたい。
今は各駅停車にしか乗れないけど、いつか飛行機で地球の裏側まで行きたい。
なんなら前澤さんと宇宙へも飛び出したい。
そんな気持ちになれるほど、私の気持ちは晴れ晴れとしていました。
「もっと描きたい」
そこにはもう戦没者の影はありませんでした。
屍でいっぱいだった丘にはたくさんの草花が芽吹いていました。
(5)に続きます。